最近でこそ、日本でもメンタルトレーニングやスポーツ心理学が注目され始めています。
しかし、その効果は実際に体験しないとわからないことから理解されないことも多々あります。
私もメンタルトレーニングがどのような効果があるのか等詳しく勉強をしたく、アメリカの大学院でスポーツ心理学を勉強しました。
そして驚いたのが、多くの教科書がマインドフルネスメディテーションのやり方やその効果について紹介していること。
最高のパフォーマンスには最適なメンタルが必要
全てのアスリートの目標は、ちょうどよいタイミングで最高のパフォーマンスをすること。
この最高なパフォーマンスをfunctional athletic behavior (機能的運動行動FAB) (BMC Psych. 2016;4:39)と言い、身体的スキルはもとよりその時に最適な精神的集中力が求められます。FABは、ネガティブ思考、心のブレ、無気力、コンディションの影響を受けることから、長年スポーツ心理学者は、メンタルトレーニングを戦略的に取り入れることを推奨してきました。
例えば、イメージトレーニング、セルフトーク、ゴール設定、感情コントロール等のスキル。
これらのメンタルトレーニングをpsychological skills training (PST)といい、思考や感情を認知し、それらをコントロールすることで最適な精神的集中力を作りあげることができると考えられてきました。
なぜ、スポーツ心理学者はマインドフルネスメディテーションを推奨し、トップアスリートはマインドフルネスメディテーションをトレーニングに取り入れるのでしょうか?
それは、「思考や感情をコントロールすることは困難だから」。
なぜ、困難か?
人は起きている時間の内46.9%の時間は、実際にやっていることとは異なることを考えている(2010年のハーバードスタディー)
思考は、過去の経験、体験、そして学習した知識等から形成され、感情は、思考に情報が加わった反応
脳のなかで、意識的には134/秒の情報を処理しているが、約2~4 million/秒の情報を無意識的に処理していて、無意識的にあらゆる意味やルールを作っている
つまり、そもそもPSTで思考や感情を認知することはできてもそれをコントロールすることは物理的難しいということ。そして、マインドフルな状態でいることも難しいということ。
「マインドフル」の状態とは、
自分の全ての動作や所作に心を行き渡らせること
動作にしっかりと意識と注意が向いていること
身体と意識がシンクロした状態で身体に馴染んでいる状態
その瞬間をありのまま、あるがままの状態や状況を評価判断せずに受け入れることができる心の状態を意味します。
マインドフルネスメディテーションは、「心の筋トレ」と言われ、まずは心を落ち着かせ、散漫な状態でいることを知ることから始まり、徐々に心を安定させていきます。その結果、明晰さ、柔軟な心を得ることができ、心に余裕がでてき、集中力も持続します。そして、どんな状況でも柔軟に対応ができるレジリエンス力を得ることができるのです。
いつから?実際にその効果はあったのでしょうか?
1970年から80年代にかけてマインドフルネスメディテーションが医療現場で使われるようになり、医療機器の発展とともにその効果が科学的にわかり始めました。
そしてスポーツ現場でマインドフルネスメディテーションが導入されたのは1985年。大学とオリンピックのボート競技の選手を対象にマインドフルネスメディテーションを試験的に取り入れたの始まりです。(J Clin Sports Psych. 2014;8:221-44)そして、「パフォーマンスが向上した」と感じた選手をさらに検証をしたところ、マインドフルネスメディテーションは、ストレスや不安を軽減するなど脳に与える影響が持続することがわかったそうです。(J Clin Sports Psych. 2014;8:221-44)
また、マインドフルネスメディテーションで得られる、inner peach(内なる平和)がパフォーマンス向上に影響があるのか?という点については、French Institute of Sportsが検証をしたところ、「マインドフルネスメディテーションをトレーニングに取り入れたゴルファーは、ナショナルランキングが上がった」という報告がありました。(J Clin Sports Psych. 2009;4:320)
他にも パフォーマンス向上に必要なself-efficacy(自己効力感)の向上が見られたという報告もあります(Anxiety, Stress. and coping 2014:27(3):270-287)
効果が表れるのにどれぐらい時間がかかるのか?
多くのアスリートや指導者からの質問は「効果はいつ現れるのか?」です。
これについて実際に検証した論文のよると、「効果が表れるのは個人差はあるものの8~12週間は必要。6週間で効果が表れたという選手もいる。」(J Clin Sports Psych. 2014;8:221-44)という報告があります。
マインドフルネスメディテーションは心の筋トレです。したがって、毎日最低でも15分から20分坐らないと効果は表れませんし、継続しないとその効果は薄れます。
最初は継続することが難しく感じる選手もいますが、練習のルーティーンに取り入れると継続しやすいです。
最初は、マインドフルネスメディテーションの講師と一緒に坐ることをお勧めします
マインドフルネスメディテーションは、PSTと同様マインドを扱うもの。マインドフルネスメディテーションのアプリ等を使ってもよいのですが、最初は講師と一緒に坐ることをお勧めします。そして、ちゃんとできているかが不安になる選手もいるので、定期的に講師にチェックしてもらうと良いと思います。
個人的にはマインドフルネスメディテーションをしっかり行えば、PSTを取り入れなくても最高のパフォーマンスは可能と思っていますが、PSTと一緒にマインドフルネスメディテーションを行うことも可能ですし、マインドフルネスメディテーションをメンタルトレーニングの基盤として取り入れるのも良いでしょう。
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